2018-02-09

三か条を胸に制作者・協力者に寄り添う
地域でロケを支援する「人」インタビュー~豊橋編~

話す人たち

  • 有限会社ベッピンエンタテイメント代表取締役
    田辺親さん
  • ほの国東三河ロケ応援団 団長
    鈴木惠子さん

映画「新宿スワンⅡ」「少女」やドラマ「LEADERS(Ⅱも含む)」「ルーズヴェルト・ゲーム」「陸王」など、近年、豊橋市はロケ地として多くの映画・ドラマを誘致。「映画のまち」として全国から注目されています。なぜ豊橋はそんなに関係者にウケるのか、その理由を仕掛け人・鈴木惠子さんと田辺親さんにお伺いしました。

ロケの苦労も吹き飛ぶ「ありがとう」

―田辺さんは2005年に「豊橋市政100周年記念映画:早咲きの花」に参加されて以来、いろいろな豊橋ロケに関わっていらっしゃいますね。

田辺さん: 普段は、美容室やエステ・ネイルサロンの経営が本業なのですが、この作品に、当時豊橋商工会議所青年部会長だった佐藤元英さん(現:(一社)豊橋観光コンベンション協会会長)を頭に青年部で協力させていただいたご縁で、それ以来、エキストラ集めやロケ地探し、ケータリング、キャストの送迎、緊急時の対応など様々なことに関わらせていただいています。

―それを12年も…すごいですね(笑)。ロケをすると現場では、どんなハプニングが起こりますか?

田辺さん: とくにエキストラやボランティアスタッフを集めて、無事に終えるまでには多くのハプニングが起こります。多くの人が仕事を休んで集まってくれたのに、待たされた挙句出番がなくなったり、スタッフ用の弁当が行き渡らなかったり…間に立つ立場としてはそれが一番ツライです。それでも参加してくれた方たちが「映ってたよ!」「映ってなくても、関われただけでうれしい」と言ってくれた時は本当に嬉しいです。

制作側に対してうれしいと思うのは、できあがった作品を見て「わざわざ豊橋で撮らなくても東京近郊で撮れるのでは…」と思うものもあるのですが、わざわざ来てくださるんですよね。しかも、作品中に「豊橋」を入れ込んでくださったりして…。ロケで大変な思いをしても、そういうことがあるから、やっていて嬉しいです。

満足を感じてもらうために動く

―ここのところ制作関係者から「豊橋」の名が頻繁に聞かれます。そんな豊橋の魅力とは何でしょうか。

鈴木さん: 豊橋は、山や海も近く、交通の便も良い。また、市や学校等の公的機関や地元の企業、住民の方々の理解があり、町全体でロケを支援していこうとする体制が整ってきています。
さらに、ほの国東三河ロケ応援団では、撮影支援をするにあたり、3つの決めごとを作ったんです。

1.要望にはNOと言わない
2.不可能を可能にする
3.かゆいところに手が届く
この三か条を心に刻み、どんなことにもできる限り対応してきました。すると、リピートが増えて、一度来た監督や制作者の方が次の作品でも来てくれるようになりました、今はほぼそのパターンですね。

―ドラマの『陸王』も「豊橋国際マラソン」として、国道や混雑する駅前商店街を封鎖しての大々的なロケを行いましたね。あれから制作関係者の間で、豊橋では国道を封鎖できるらしいぞ、(「陸王」ではそこを逆走までしたらしい!)と評判になっていました(笑)。

鈴木さん: これまでの作品では、豊橋で撮影されたものの作中では別場所の設定になっていたりして、なかなか豊橋設定の作品にならなかったのですが、『陸王』では、監督のご厚意で、国際マラソン大会の名前に「豊橋」と入っていたのでとてもうれしかったですね。道路封鎖に関する許可申請については監督の撮りたいイメージを何とか実現しようと警察を始めとする関係各所と何度も協議をしましたが、この撮影で市民の方がとても盛り上がったのが何よりうれしいことでした。

「不可能を可能にする」という部分では、ある時は観覧車の撮影の際、いろいろな角度から撮影する時に一回転させると同じ位置に来るまで長い時間待たなくてはならないので、90度回転させて、また90度逆回りさせてほしいと要望があったことも。この時は本当に難しかったですね。なにしろ規定を変えなくてはなりませんでしたから。

―規定を変えるほどの要望なんて、最初から無理と思ってしまいますが、そんなことはないのですか?

鈴木さん: どんな要望にも「やる前からあきらめない」ということです。そして「すぐに返答をする」ことも大事。あらゆる手段を駆使していけば、やがて突破口が見つかるような気がしています。

―お話を伺っていると、その情熱が、突破口を「こじ開けて」いるように思います(笑)。こうやって積み上げてきた実績や対応力が、制作関係者の間で「豊橋なら」という信頼へつながっているのですね。

ロケの思い出

―これまでに多くの大規模ロケを誘致・支援されていますが、印象に残っているロケの思い出話などありますか。

田辺さん:「陸王」ロケの時は、マラソンシーンの際の竹内涼真さんの送迎を担当させていただいたのですが、ファンの方々が私の車を憶えており、見つけた際に「涼真君の座った席に触らせて」とか「静かに隠れているから送迎中(後ろの席に)潜り込ませて」とか、しまいには「涼真君いなくてもいいからおじさんと車だけでも撮らせて」など物凄い迫られましたね…

また、後日行われた「陸王 豊橋ロケ感謝打上げ焼き鳥会」では、福澤監督自ら+エキストラ、ボランティアスタッフの方々が前日から肉、野菜・・を切って準備した3800本もの串を焼く中、一般エキストラの撮影要望に嫌な顔一つせず、作中の『こはぜ屋』の法被まで皆に着せて快く撮影に応じており、監督の懐の深さ、温かいお人柄を感じました。
別作品だと、2015年に公開された映画「みんな!エスパーだよ!」では、セクシーなシーンが多く、急に制作スタッフから「派手目な女性の下着を50組買ってきて、なるべく安く!」というオーダーを受け、最初は戸惑いました。結果、「撮影に使うので」だけだと危ない人に思われそうだったので、「みんな!エスパーだよ!の撮影に使うので」といって堂々と下着屋さんの安売りバーゲン下着の山をあさり、度胸をつけさせていただきました…。

鈴木さん: ロケの思い出話を話すとキリがないですが、直近の作品である「陸王」だと、撮影中から終了後まで反響がすごかったですね。ロケ当日は、近隣の飲食店やコンビニは、人であふれ、ホテルはどこも満室、豊橋駅前のスターバックスは過去最高の売り上げだったみたいです。

―私も現場をみさせていただきましたが、そもそも、前入りするにも泊まるとこがなく、車中泊を覚悟しました…当日のエキストラの数も凄く、まさに圧巻でした。

鈴木さん: 応募自体は2万人を超えていて、当日も計1万人ほどの方に参加していただきましたが、驚いたのは、周辺のお店や参加者の方から不満の声が全然なく、みなさんが満足してくださったことですね。マラソンシーンのため、多くの方がキャストさんを見れたこともあると思いますが。終わってからしばらくの間は、どこにいっても「陸王」の話で持ちきりでした。

―「陸王」の現場で市民の方とお話ししている時に「地元がロケで盛り上がってとても楽しい」とおっしゃっているのを聞き、お二人の活動が地元に定着し、支持されているのを改めて実感しました。

協力者への感謝や気配りも大切に

鈴木さん: これも田辺さんをはじめとする多くの方の惜しみない協力があってこそ実現してきたのだと思います。現場制作者はどうしても撮影に集中しますから、エキストラの方々へ配慮が行きわたらないことがあります。その時に田辺さんは、エキストラの方々が気持ちよく協力できるように、動いてくださる。

田辺さん: 撮影の待ち時間は長いので、最初は喜んで集まってくれていても、だんだん嫌気がさしてきます。結局、出番がなくなることもありますし…。ですので、様子を見ながら少人数ずつエキストラ不要、キャストのみの現場へ連れていったり、少しでもこの経験がいい思い出になるようにと、ささいなことですが気を配っているつもりです。

鈴木さん: それが「かゆいところに手が届く」ってことだと思うんですよ。エキストラが気持ちよく関わることができれば、スムーズに撮影できてスタッフもうれしい。エキストラも作品の一部ですから、一体感があればより良い作品になります。また、田辺さんの御尽力もあってか、最近では、市民の方々がエキストラ出演以外の撮影の手伝いをしたり、撮影後の片付けを若いエキストラ参加者が率先して手伝っていたりなど…それについて監督からもお褒めの言葉をもらうこともあり、それが一番の誇りです。

田辺さん: 何回もロケをやっていると、スタッフの方々と仲良くなって直接連絡を取り合うようになり、「リース屋さんが休みなので、高所作業車を横浜のロケ地まで乗ってきてくれないか」「安城まで軽トラに荷物載せてきて」など様々なお願いをされることがあります。大変ですが、自分が断ることで若い制作スタッフが怒られることを思うと不憫で…ついつい受けてしまい後悔するハメに… でも、その若手スタッフの「助かりましたぁ!」の一言でそんな苦労も全て忘れちゃいますね。

鈴木さん: 田辺さんには、ケータリングを手配したり、暑い夏には大量のかちわり氷を用意していただいたり、本当によく動いてくださるので、何かあるとすぐに電話してしまう。同じ思いを持って動いてくれている同志なんです。

田辺さん: 恵子さんにはかなわないですからネ(笑)恵子さんのそんなお手本を散々見せ付けられているので、自分も当然に、必然的にそうなってしまいますよ!

―お互いに、いい関係を築き合い、映画制作の潤滑油として尽力されているのが伝わってきます。これからのさらなるご活躍も期待しています(伝説を作る…か?)。

ロケが地域に残していったもの

―今でこそ、豊橋はロケの町というイメージがついてきておりますが、ロケ支援活動を始める前と今を比べて、地域に何か変化はありましたか。

田辺さん: 実際に作品をみた地元の方が、「地元にこんな場所があったのは知らなかった」「あの場所がこんな風に使われているなんて驚いた」等とおっしゃっているのを聞いて、ロケは地域がもつ資源を見直すきっかけになっているのではないかと感じますね。

鈴木さん: はじめのころは、エキストラの方も「有名人に会えるから」という理由で参加している方が多くいたが、ロケ支援を重ねるごとに「せっかく遠方から豊橋までロケにきてくれたのだからより良い画を撮っていってほしい」という理由に変わっていったのが印象的で、ロケを通じて地域の人が自分たちの住んでいる場所に誇りや愛着をもつようになったのではないかと感じます。

―お二人のロケ支援活動への変わらぬ姿勢や気配りが地域の方にも伝わった結果であるように感じます。今後もたくさんの作品を誘致して、また、おもしろいお話しを聞かせてください。お二人とも、ありがとうございました。

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