話す人たち
- 映画監督
三島 有紀子さん - 女優 / 桜井由紀 役
本田 翼さん
東三河全域でロケが行われた映画「少女」がいよいよ10月8日に全国公開される。
それぞれ心に闇を抱えた少女たちの夏を描いたこの作品は、美しい東三河の景色もまた映画を盛り上げるスパイスに。
なぜ東三河を選んだのか、美しいシーンに隠された意味は…など映画の魅力とともに、撮影時の思い出を主演の本田翼さんと三島有紀子監督にうかがった。
三島さん: 映画『少女』は東三河で生まれて、東三河に育てていただいた作品。まずは、お世話になった東三河のみなさんに早く見てもらいたいです。
本田さん: 少女たちの闇がどうなるか、一緒に見守ってほしいです。
―今の率直な感想をお願いします。
本田さん: 映画は2015年10月から撮り始めましたが、役柄も撮影も、とても印象に残っています。無事に公開を迎えて、うれしく思っています。
三島さん: 映画というのは、企画から脚本作り、ロケーション選び、撮影、編集…と公開までとても長い時間をかけて作られるものです。だから、公開の日を迎えられるとはとてもうれしいですね。早く、お世話になった東三河の方々に見ていただきたいと思っています。
―劇中で由紀が書く小説「ヨルの綱渡り」は、この作品を象徴する言葉だと感じました。
湊かなえさんの小説を読んだときに、17歳という自分勝手でもろくて、はかなくて、狭い世界でいろんなことが起こって、とにかく息苦しい感じがこの「ヨルの綱渡り」という言葉に凝縮されていて素敵だなと感じたんです。大人からすればキラキラして一番良い時期に映っていたとしても、実際はうまくいかないことが多くて生きづらい。 「ヨルの綱渡り」という言葉の中には、真っ暗闇の中で、前に進まなきゃいけない恐怖心や好奇心を一言で言い表しています。映画では、少女たちの「ヨルの綱渡り」が果たしてどうなっていくのか、観ている方とひとつずつ見守っていく、そんな作品にしたいなと思って、この素敵な表現を映画のひとつの核にしました。
本田さん:「ヨルの綱渡り」は印象的な言葉ですよね。作中では原稿用紙に書くシーンが多くて、暗記して書いていましたが、“由紀はきっとこう思っていたんだ”と書きながらどんどんイメージが膨らんでいきました。 由紀は自分のこともまわりのこともわかっていると思いこんでいるけど、本当はよくわかっていない。何かのために小説を書きながら、由紀自身が自分の中身を投影していくような、自分自身に返ってきたような、そんな体験を由紀と一緒にしながら演じました。
―「ヨルの綱渡り」を映像で表現したのが蒲郡市の三谷海岸ですね。
本田さん: そうそう、この細いところ、歩くの怖かったな…(笑)
三島さん: 普通のイメージだと「ヨルの綱渡り」は真っ暗闇の中張られたロープの上を渡るといったものに思われるかもしれません。でも、私は水辺が「ヨルの綱渡り」のイメージに近いと考えていたので…。三谷温泉海岸の雰囲気もイメージぴったりでした。
―女の子同士の友情とか、恐ろしいけれど美しくて、それが青春なのかなとも思いました。
三島さん: 私は、この作品は湊かなえ作品の中で唯一の青春映画だと思っています。ミステリーであり、青春映画でもあるこの作品を私なりの解釈で映像化すると、海辺の美しい夕景の中を疾走する少女の姿が浮かびました。そして実際に竹島や三谷温泉海岸を見つけたとき、ここしかないな、と心にグッとくるものがありました。
三島さん: 蒲郡市の五井山から見下ろす景色の美しさに感動して決めました。
本田さん: 田原市中央図書館がステキでした。
―東三河をロケ地に選んだ理由は何だったでしょうか。
三島さん: 少女たちは狭い世界で必死に生きる毎日なので、世界は本当はとても広いんだということを視覚的に感じさせるロケ地がどうしても必要でした。高台から見下ろすと、美しくて生活感のある街の中に公園があって、その先には広大な海が広がっているという場所を、東京から広島県の呉まで海岸沿いをずっと探していました。偶然、地図で見つけたのが、蒲郡市の五井山。すぐに蒲郡へ行って、本当にイメージと合うか、山に登って朝焼け待ちました。そこで見たあの景色…町から海、竹島へと続いていくあの風景が圧倒的に美しくて、ここで撮りたい!と強く心惹かれました。 そして東三河の各地をそれぞれ歩いていくと、随所に映画のシーンになりそうな、絵になるすべてがありました。…これだけ揃っているなんて、すごいなと思いましたね。 建物全体がとにかく美しい豊橋市公会堂やレトロな豊川稲荷前の通り、剣道のシーンを撮った砥賀神社は、時代劇でもう一度撮りたいと思うぐらい、素晴らしいところでした。
本田さん: 東三河って素敵な場所がたくさんありますよね。何度も何度も走った三谷温泉の海岸は、本当にきれいでした。大事なシーンを撮った、吊り橋も印象深いですね。他にも、私が出ているシーンだと、田原市中央図書館、とても素敵でしたよ。もっとゆっくりいろんな場所を見たかったな…。
三島さん: 田原市中央図書館は本棚が作るアーチも素敵だったし、光の映え方も素晴らしかった。 竹島で撮影した花火大会のシーンでは、100名のエキストラに参加していただきました。撮影は秋でしたが、夏祭りの設定なので、みなさん思い思いに浴衣を着たりして夏祭りの雰囲気を作ってくださって…。
本田さん: すごいですね。それは、大変な現場でしたね。
三島さん: 映画作りは、天候や数々の都合によって、どんどんスケジュールが変更してしまうことがあるんですけど、東三河の方々は、急なことにもいつも快く対応していただいて、とても応援していただきました。だから、東三河のためだったら、私なんでもします!っていう気持ちなんですよ。今回の取材で、絶対にみなさんにお礼を言いたいと思ってやってきました。東三河の皆さん、本当にありがとうございました。
本田さん: 東三河の名物、食べたかったなぁ~
三島さん: 今度おごってあげるから、また一緒に行こうよ。
本田さん: 撮影中、しばらく滞在しましたが、私、東三河の名物を全然食べてない…。エキストラの皆さんと接するシーンも少なかったし…。
三島さん: 由紀は孤独な役だったからね(笑)この映画の中心に流れているのは、人間の奥底にある負の感情や孤独。役者さんは常にそれらと向き合う苦しい作品です。ですが、翼ちゃんと山本美月ちゃんには、その闇を引きずって過ごし、逃げ道を作らないように仕向けていたので。特に翼ちゃんは、外の世界を遮断して、闇の世界にどっぷりつかってもらいました。
本田さん: そうなんですよね…美味しい東三河グルメも楽しみたかったのですが…。
三島さん:(笑)私は、閉店間際のお店に滑り込み豊橋カレーうどんを食べに行きました。時間がないのでお店まで走って行って…慌てているから舌をやけどして(笑)とっても美味しかったですが、今度は、ぜひゆっくり味わって食べたいですね。
豊川いなり寿司も頂きましたが、こちらもおいしかったです。翼ちゃん、今度おごってあげるから一緒に行こうよ。
本田さん: いいですね、よろしくお願いします。
―最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
本田さん: 東三河は本当にきれいなロケ地でした。食べられてないものもたくさんあるので(笑)、食べたいです!映画「少女」は、若い世代だけでなく、さまざまな年代の方に見てほしいと思っています。心の闇を抱えた少女たちの行く末をぜひスクリーンで見守っていただけたらと思っています。
三島さん: この映画は、私にとって東三河の方々と一緒に作ったという気持ちでいるので、東三河の皆さんが喜んでくださるとうれしいなと思っています。また、それ以外にお住まいの方には、この東三河の素晴らしさに気付いてほしいし、東三河の方も「自分のまちは、こんなに美しいところだったんだ」と再認識してもらえたら幸せです。多くの方々の手を借りて丁寧に作った作品ですので、ぜひ楽しんでご覧ください。
PROFILE
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- 三島 有紀子さん/映画監督
- 大阪市出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、神戸女学院大学卒業後にNHKに入局。「NHKスペシャル」「トップランナー」など数多くのドキュメンタリーを企画・監督、キャリアを積む。03年に独立。09年に 『刺青~匂ひ月のごとく~』で映画監督デビュー。その後も『しあわせのパン』(12)、『ぶどうのなみだ』(14)と、オリジナル脚本・監督で作品を発表。『ぶどうのなみだ』は第38回モントリオール世界映画祭のワールド・グレイツ部門に招待され、世界的に高い評価を得た。15年には中谷美紀主演で『繕い裁つ人』を発表。また、近年はWOWOWのダークミステリー『硝子の葦』(原作・桜木紫乃)、ダメな中年サラリーマンが主人公の短編『オヤジファイト』など次々と新境地を開拓。
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- 本田 翼さん/女優
- 本田翼 92年生まれ。東京都出身。中学時代にモデルとしてデビュー。ドラマ「GTO」(12)、「とんび」(13)などで注目を集め、15年には「恋仲」で初の“月9ヒロイン”に抜擢された。主な出演作は、映画『江ノ島プリズム』(13/吉田康弘監督)、『すべては君に逢えたから』(13/本木克英監督)、テレビドラマ「ショムニ2013」(13)、「安堂ロイド~A.I knows LOVE?~」(13)など。主演をつとめた『アオハライド』(14/三木孝浩監督)では学生時代の切ない恋を、第28回東京国際映画祭のクロージング作品としても話題を集めた『起終点駅 ターミナル』ではこれまでとは異なる大人の女性を演じ、女優として益々注目を集めている。 現在、日テレ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』に出演中。 待機作に『土竜の唄 香港狂騒曲』(2016年12月23日公開/三池崇史監督)、『鋼の錬金術師』(17/曽利文彦監督)がある。