2019-03-01

吉本ばなな原作「デッドエンドの思い出」日韓合作で映画化!
ボイメン田中俊介さんが語る撮影秘話

映画「デッドエンドの思い出」公開記念インタビュー

話す人

  • 田中俊介
    BOYS AND MENさん

原作者吉本ばななさんが自ら、最高傑作と語る「デッドエンドの思い出」が、韓国の女性監督チェ・ヒョンヨンの脚本によって映画化されました。W主演を韓国のアイドルグループ少女時代のスヨンさんと名古屋発エンターテイメントグループBOYS AND MENの田中俊介さんがつとめ、撮影は全て愛知県内で敢行。俳優として注目株のボイメン田中さんに、日韓の映画制作の違いや、あらためて知る名古屋の魅力など語っていただきました。

―日韓合作映画の主演というプレッシャーはありましたか。

田中さん: とにかく、まさか自分が、という驚きがありました。しかも韓国側の主演が少女時代のスヨンさんということで、しっかり演じなきゃとピリッとした気持ちになりましたね。

―しかも舞台は、田中さんのホームタウン名古屋。

田中さん: そうなんですよ。これは地元民として、とてもうれしかったですね。名古屋は映画ロケの誘致が盛んで、撮影自体は頻繁に行われているんですが、実際に「名古屋」として登場することは少ないんです。でもこの作品は、名古屋が舞台。とくに観光地らしい場所は出てこないのに、名古屋のいいところをちゃんと観てもらえる作品になっています。

―(日本で行う)普段の現場と違いましたか。

田中さん: 撮影しているのは確かに名古屋なんですけど、どこを見回しても韓国語が飛び交っていて、まるで韓国にぽつんといるような気分でした(笑)。
韓国映画に参加すること自体初めてなのであまり分かりませんが、この作品に関して日韓の現場の違いは、かなりあったと思います。

韓国の人は、スヨンさんも監督もスタッフの方々も、みなさん自分の意見をはっきり言うんですよね。日本人は全体の和を重んじて空気を読んだりしがちだし、僕もどちらかといえばそういうタイプなんですけど、この現場には日本的な空気はありませんでしたね。すごく勉強になりました。

―田中さんは、演じる西山のイメージそのままのように思えますが。

田中さん: いやー全然ですよ。僕の中では西山は理想の男なんで…。西山は人の心にそっと寄り添える人。例えば、西山とユミが初めて出会うシーン。カフェの端に座り、切羽詰まった表情のユミを見て、近づきすぎない距離感で、ユミの存在を視界の端に入れているんです。僕は、常連客と会話をしながら、そして鳥のモビールを飾りながら、ユミを気にかけていることをほんの少しの身体の傾きで表現しました。その時、監督から「背中の表情だけで西山の人物像が見えた」と言っていただけて、ホッとしました。
西山は、誰とも分け隔てなくつきあえる明るくオープンな性格ですが、それだけではなく、人とのほどよい距離感がわかっていて、まわりを心地よくさせる人物でもあるんです。自分にない部分がいっぱいあってすごく魅力的なので、演じるのは本当に難しくて。

だからあまり事前に作り込み過ぎずに、僕が現場で感じ取ったものをうまく役柄に反映できたらいいなと思っていました。現場では、とにかくみんなとたくさん話して笑って、カメラが回るギリギリまでコミュニケーションをとろう、そこで生まれる空気感が、そのままスクリーンに映るんじゃないかと考えていました。

―例えば身近の、ボイメンのメンバーの中には西山みたいな人っています?

田中さん: うーん…いないですねー。西山みたいな人、僕は見たことない(笑)。

―W主演のスヨンさんはどんな方ですか。

田中さん: スヨンさんとは、互いの境遇が同じで年も一緒ということで通じる部分もありましたし、芝居に対する考え方や向き合い方のストイックさが半端じゃなくて、とても刺激を受けました。僕はいつも、現場に入ったらカメラが回る直前まで1人で役に集中したいタイプですけど、今回は自分から話に行きました。

人見知りなので、いつもの自分じゃ絶対にできないですけど…きっと西山ならそうするんじゃないかと思って。はじめてお会いした時に勇気を出して「よかったら役についてもっと話がしたいんだけど」というと「私もそうしたかったんです」と喜んでくれました。撮影中は、どこまでセリフ通りでやるのか、余計な言葉も混ぜて話してみようとか、でも吉本ばななさんの言葉は無駄がなくてきれいだから、ここは言葉をきれいに伝えてみようとか、時間が許す限り、ありとあらゆる話をしましたよ。ほかには、僕は韓国語が話せないので、いつもカタコトの韓国語をいじられてましたねー。熱のある人と一緒に仕事をするのは楽しいし、本当にいい体験になりました。

―みなさんに名古屋名物の差し入れをされていたとか。

田中さん: 韓国のスタッフやキャストの人に「名古屋はいいところだ」と感じて帰ってほしくて。名古屋には他にはない名物がありますから、僕の撮影がない時も頻繁に差し入れをしていましたね。食べ物はコミュニケーションのひとつになりますしね。

それでスヨンさん、めっちゃ食べるんですよ。少女時代の中でも有名な大食い女子だそうですね(笑)。コンパルのサンドイッチ、天むす、ういろう…ほぼ全部じゃない?と思うほど、名古屋名物を差し入れしたんですけど、中でも天むすはめっちゃ食べていましたねぇ。

―映画撮影を終えて、あらためて名古屋について思うことは。

田中さん: 久屋大通公園の緑とテレビ塔の風景は、とてもきれいで。当たり前すぎて、見落としていた名古屋の良さをあらためて発見しました。

ビルが多い場所でも同時に自然も多いんですよ。景色の美しさだけではなくて、映画にも出ていましたけど、商店街の人もみんなあたたかくて…。こういうのが名古屋の魅力だなって感じました。映画を観た多くの方に、名古屋の魅力が伝わればうれしいし、ロケ地に遊びにきてくれたらうれしいですね。

映画の雰囲気そのまま!ロケ地巡りをしよう

映画を観た後のお楽しみは、ロケ地巡り。ほとんどが名駅~栄エリアに集中しているので、散歩感覚で周れます。名駅エリアではファン待望の「エンドポイントカフェ」が期間限定で営業しているので、ぜひのぞいてみて。お客さんのほぼ全員が注文するのが、あの「味噌トースト」です。映画の時より進化して、はちみつをつけて食べるホットサンドになっていますよ。名古屋の新名物になるかも!?(千種区にあったオーガニックカフェ「空色曲玉」の谷陽子さんが考案した身体に良いメニューです)
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エンドポイントカフェ
住所:名古屋市中村区名駅南2-3-16-12
営業:金土日11時~17時(6月末まで)

映画「デッドエンドの思い出」

【あらすじ&レビュー】
「日にち薬」という言葉がある。月日の経過が薬代わりとなること―愛する人が亡くなった時、失恋した時、もちろん実際の骨折や筋肉疲労でも使うが、つまりはじわじわした痛みとつきあいながらそれが徐々に鎮静化していくのを待つということである。
「デッドエンドの思い出」はまさしく「日にち薬」の物語だ。韓国人女性・ユミは、信じていた婚約者の裏切りに、茫然と立ち尽くす。メッセージでしか連絡をよこさない男。転勤先の日本の住所も教えてくれない男。ただ美しい思い出を信じて、やってきた彼の家から出てきたのは、結婚を前提に交際しているという日本人女性だった。まるで妻のようにふるまう女と、そんな彼女に聞かせるように別れの言葉を口にする残酷な男の姿に、細くつないでいた希望の糸が、ぷつりと切れた。もともと結婚に反対されていた男だ、無様に振られたなんて、家族から今更何を言われるかと思うと韓国にも戻れない。いまにも心が壊れそうなユミは、「日にち薬」のために日本にいることを選んだ。空虚な心でたどり着いたのは、ゲストハウスも兼ねたカフェ・エンドポイント。ここは、カフェオーナーの西山に会いに、外国人や地元の人が好き好きにやってくる憩いの場所だった。それぞれの出会いがそうであったように、ユミをあたたかく迎え入れる人たち。
そこには、過剰に個性的な人間やおせっかいすぎる人は出てこない。常連客が話しかける。西山が買い物に連れ出す…そんな何気なく優しい日々。誰も説教しないし、教訓すらない。ましてや親切な西山と恋に落ち、失恋を乗り越える、なんてドラマは絶対に起こらない。だからと言って、つまらない話にならないのは、絶妙な距離感と雰囲気を持つ西山のキャラクターにあるだろう。ハラハラしないけど、いつの間にかほんのり元気になっている。友達の話みたいな耳ざわりのよさ、そんな吉本ばななの世界観が見事に映画になっていると思う。
西山について、田中俊介さんは「最高の男。こんな人になりたい」と語っていたが、ヒーローではない男のカッコよさがあった。自分を見つめ直したユミが韓国に戻り、新たな一歩を踏み出す中、エンドポイントもしずかに閉店。その先には、観客までひきずり込まれた西山のキャラだろうか、不思議と悲しさはない。彼はどこに行くのか…描かれてはいないがこちらも新しい一歩がきっと拓けているだろう。
映画では愛・地球博記念公園や古戦場公園で撮ったという満開の桜が印象的だった。日にち薬がすっかり効いたことを知らせるような美しい景色。ふんわりと春風を感じるようなあのシーンを、ぜひ劇場でご覧あれ。

【原作】吉本ばなな「デッドエンドの思い出」(文春文庫刊)

【CAST】スヨン(少女時代)、田中俊介(BOYS AND MEN)

【STAFF】監督・脚本/チェ・ヒョンヨン 撮影/ソン・サンセ

【配給】アークフィルムズ/シネマスコーレ

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