話す人たち
- 西尾市役所 観光文化振興課
榊原 裕市さん - フリーランス「ノイズ」制作部
宮下 直也さん
2022年1月28日(金)公開の映画「ノイズ」は、愛知県の全面協力のもと、知多半島や西尾市などを舞台に撮影が行われました。本作の撮影をきっかけに誕生したのが、西尾市のフィルムコミッション「ロケーションナビ・にしお」です。今回は西尾市の榊原裕市さんと映画「ノイズ」制作部の宮下直也さんに、フィルムコミッションの活用方法と、「ロケーションナビ・にしお」のこれからについてお話を伺いました。
―「ロケーションナビ・にしお」の設立おめでとうございます!そもそもなぜ、西尾市にフィルムコミッションを立ち上げることになったのでしょうか?
榊原さん: 2020年4月から2021年3月まで、西尾市役所から愛知県の観光振興課に出向をしており、フィルムコミッション事業に従事していました。具体的にはロケーション撮影が円滑に行われるためのサポートや、県内にある各地域のフィルムコミッションの支援などを担当。
そんなとき、制作部の宮下さんから撮影の相談をいただき、「ノイズ」を愛知県の知多半島や西尾市などで撮影することになったんです。宮下さんとともに実際のロケ地を探したり、撮影支援を行ったりする中で、フィルムコミッション事業は西尾市にとって観光振興や地域の経済振興につながる有益な事業であると確信し、設立に向けて動き出しました。
ー設立にあたっては苦労もあったそうですね。
榊原さん: 西尾市にはこれまでフィルムコミッションが存在しなかったので、フィルムコミッション設立にあたり、事業効果や必要性について納得してもらえるか不安がありました。しかし、昨年経験した愛知県フィルムコミッション協議会での活動実績や、今回の宮下さんからのお声がけをはじめとした制作会社の声が後押しとなり、設立の許可をいただくことができました。
ー宮下さんの声が「ロケーションナビ・にしお」の設立に大きな影響を与えたのですね。宮下さんから見て、ロケ地としての愛知県の魅力を教えてください。
宮下さん: 県内に大都市と田舎、山と海、などあらゆるロケーションがそろっている点はとても魅力的だと思います。映画やドラマなどの媒体を問わず一つの作品においては、複数のロケーションでの撮影が必須になっています。さらに、撮影は基本的にタイトなスケジュールで進行する場合がほとんどのため、例えば都会のシーンを撮影して同じ日に海辺のシーンを撮影したい、ということも。それが愛知県では可能なんですよね。
あとは、さまざまなロケーションを網羅できている上で、東京からのアクセスが良い点も挙げられるかと思います。映画の制作会社の所在は東京がほとんどですし、出演者も東京在住の方が圧倒的多数です。そういった状況で、新幹線や飛行機などアクセス方法も豊富にあり、時間もそれほどかからない利便性の高さも魅力と言えるのではないでしょうか。
ー実際に愛知県フィルムコミッション協議会への撮影の問い合わせは、年間100件以上あるそうです。今回の「ノイズ」という作品では西尾市や知多半島が撮影の舞台になりました。
宮下さん: 実は当初、「ノイズ」は愛知県ではないある離島での撮影を予定していたんです。しかし、実際に撮影がスタートした2020年の夏ごろは、ちょうど一度目の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除された直後でした。撮影を予定していた離島にコロナの感染者はゼロという中で、東京からおよそ80人もの撮影スタッフが訪れるのはいかがなものかと、ロケ先を変更せざるを得ない状況に……。
都市部と離島の撮影シーンがあることと、原作の舞台であることから、愛知県がロケ地の候補に挙がりました。感染リスクをなるべく下げて実施する前提で、愛知県フィルムコミッション協議会さんに撮影の相談をしました。
ーそこで出会ったのが榊原さんだったのですね。
宮下さん: そうです。当時、愛知県でフィルムコミッション事業を担当していた榊原さんをはじめ、撮影の舞台となる知多半島と西尾市の皆さんがコロナ禍であるにも関わらず、撮影を受け入れてくれました。
ありがたさを感じるとともに、今回の撮影によって、地元の方々にご迷惑になってはいけないと、一層気を引き締めて撮影に臨むきっかけになって。愛知県の皆さんの協力的な姿勢には本当に感謝しています。
ー実際に榊原さんも西尾市で行われた「ノイズ」の撮影に協力されたのですよね。撮影はいかがでしたか?
榊原さん: 西尾市内の民家や住宅街を舞台に撮影が行われたのですが、市民の皆さんが撮影を非常に好意的に捉えてくれたのがうれしかったですね。あとは、撮影をきっかけに西尾市の景色の見え方が変わりました。私は今、西尾市在住なのですが、あまり日常の景色を意識して生活はしていませんでした。
今回の撮影において、宮下さんとロケハンをしたり、実際の撮影を目の当たりにしたりしたことで、西尾市内の風景がまるで特別なように思えたのです。この経験から、「ロケーションナビ・にしお」として、まだまだPRできる場所があるなとワクワクしましたね。
宮下さん: 榊原さんから地元の方々が撮影を前向きに受け入れてくださっているという話を聞いて、とてもうれしかったのですが、実際の撮影が始まると、皆さんとても遠慮がちで……(笑)。私としては協力いただいた皆さんに対して、撮影を楽しんでもらうことでしか還元できないと思っていたので、また撮影の機会があればぜひ見学して楽しんでもらえればと思います。
ー西尾市内で撮影に適した場所について、宮下さんから意見をいただくこともあったそうですね。
榊原さん: 西尾市にある漁協の建屋に対して、「(「ノイズ」の撮影に限らず)いろいろな撮影で使えそうですよ」と宮下さんが言ってくださったときは、目から鱗でした。これまでは一般的に観光地として謳っている場所をロケ地として大きくPRしていました。一方で、私たちが生活している、日常に溶け込んだ場所もロケ地として成立する。宮下さんとの前向きなお話の中で、そういった貴重な気付きがありました。
ー宮下さんはこれまでも愛知県フィルムコミッション協議会のサービスを活用してさまざまな作品を制作されていますが、どんな印象をお持ちですか?
宮下さん: どんなときでも話を聞いてくれて、相談に乗ってくれる、という印象ですね。作品の規模やスケジュールなどで難しい課題があったとしても、まずは前向きに話を聞き、実現につなげようとする。その上で、どんなことができるのかプラスアルファの提案をしてくれるので、制作担当としてとても助かっています。
それから、愛知県のフィルムコミッションをはじめ、各市町村のフィルムコミッションや観光課の方々など皆さんが地元を愛しているな~と感じますね。私がある撮影場所を探しているときも、すぐに「こんな場所あるよ」と紹介してくれたり、「隣の町に行くとこんなところもあるよ」と提案をしてくれたり。そういった体験から、皆さんの愛知県へのポジティブなエネルギーを実感できます。
サスペンス映画である「ノイズ」には、マイナスイメージと捉えられてしまいそうなシーンが出てきますが、それを踏まえた上で一つの作品として今回も前向きに話を聞いてくれましたね。
ー今後、どのように進化すると愛知県のフィルムコミッション事業が発展していくと思いますか?制作者としてのご意見をお聞かせください。
宮下さん: 私たち制作側も一緒に考えなければいけないことだと思いますが、先ほどの榊原さんのお話にあったように、みなさんが生活している中で普段何気なく過ごしている場所が映画の撮影では魅力的に映ることが多々あります。映画の撮影は観光地ではない場所で行われることの方が多いんです。
日常のシーンを切り取るとなると、必然的に生活区域での撮影ばかりに。そういった中で、撮影隊はどうしてもそこで暮らしている人たちに少なからずご迷惑をかけてしまいます。ロケを受け入れてくれた方たちにとって一層地元を好きになるきっかけを作れたらと思います。その上で少しでも観光に還元できる仕組みができればいいなと思っています。だいぶ欲張りな願いですが、地域の方々が撮影というものを前向きに捉えてくれる土壌をお伺いした先々で作れたら最高だと思います。
榊原さん: いかにしてフィルムコミッション事業を観光振興につなげられるか、という点は課題であり、これから力を入れなければいけない点でもありますね。もちろん、ロケ地が観光地として盛り上がることがあればうれしい限りですが、現実的にはなかなか難しい。
だからこそ、今回の「ノイズ」のように西尾市の生活区域をロケ地として利用してもらい、食事や宿泊といった直接的な経済効果を生み出すことも推進していきたいです。西尾市には抹茶やうなぎなど特産物も多いので、出演者や制作の方に味わってもらい、それをPRにつなげる。そういった切り口も検討していきたいですね。
ーありがとうございました。今後の「ロケーションナビ・にしお」ならびに「愛知県フィルムコミッション協議会」の進化を楽しみにしています。