2017-03-28

ものづくりは真剣勝負
とことん追求する姿勢に共感

地域で映画制作を支える「人」インタビュー

話す人たち

  • 中外国島株式会社 代表取締役社長
    伊藤核太郎さん
  • 中外国島株式会社 営業部
    西稔彦さん
  • いちのみやフィルムコミッション協議会(一宮FC)
    村松達樹さん

平成27年6月に市や商工会議所などで設立された「いちのみやフィルムコミッション協議会」(一宮FC)は、一宮市内での撮影支援に取り組んでいます。
一宮FCを通じ、ロケ地と衣装の協力を行ったのは、服地や服の企画・製造・販売を行う中外国島株式会社。伊藤核太郎社長と西稔彦さんに撮影時のエピソードや思いを伺いました。

廃墟同然の社員寮が絶賛されロケ地に

―今回、どのような経緯で撮影協力をすることになったのですか。

一宮FC: 中外国島さんには、最初に、映画のロケ地として、ご協力いただきました。
映画イメージに合う、殺伐とした雰囲気のある、場所を探していたんです。
いくつかのご縁があって、中外国島さんに、かつて社員寮だった建物の中を見せていただいたところ、監督がそこの雰囲気をとても気に入って、決まりました。

伊藤さん: これは喜んでいいのでしょうか…(笑)一宮市では、戦後すぐに繊維産業が発展して、東北や九州から従業員が住み込みで働きにきていた時代があったんです。撮影に使われた建物は、その頃から使われている社員寮。老朽化し、(人が住んでいない階は)ほとんど手入れをしていない…まさに“廃墟”と思われても同然でした。皆さんから「いい」「いい」と褒められて逆に恥ずかしい気持ちだったのですが、少しでもお役に立てるなら、という気持ちで一作目、二作目と協力させていただきました。

一宮FC: 一宮FCは平成27年6月に設立したばかりの団体です。ロケ地の案内や宿泊・食事業者の紹介などでの動きを制作会社さんからも頼りにしてもらえ、少しずつ信頼関係を積み上げているところです。続く2作目も一宮で撮影していただけたのは、中外国島さんをはじめ、地域の皆さんのご協力があったからだと感謝しています。

伊藤さん: いえいえ、地域貢献というとカッコいいですけど、本当は、楽しそうだったから参加したんですよ。でもそこが重要で、面白そうじゃないと、地域活動も盛り上がりませんよね。多くの人が参加して、一宮がもっと盛り上がるといいですね。

一宮FC: はい。ロケ地に選ばれることで、一宮に住んでいる方にも街の魅力を知る良いきっかけになると思います。また、作品を通してこの街のことを誇りにしてもらえたらいいなと思っています。

伊藤さん: それにしても、はじめてこの話を伺ったとき、一宮で映画の撮影というのは意外な感じがしました。

愛知県: 愛知は、東京など関東の制作会社の中では、規模が大きくてレトロな工場があるというイメージがあるそうなんですよ。

伊藤さん: そうなんですね。確かに歴史のある大きな工場はたくさんありますね。
このあたりは弊社も含め、戦争の空襲で焼かれたところが多く、戦後はにょきにょきと新しい工場が建ちました。今ではずいぶん減ったとはいえ、1950-60年代の雰囲気がまだまだ色濃いんでしょうね。

いい衣装は俳優の演技に影響する

―2作品ともに、衣装協力もされているそうですね。

伊藤さん: 衣服というのは、「人と人との関係をつくるツール」だと思うんです。どういうタイプの人間であっても、社会とのつながりを、服を通じて伝えています。こうなりたい、こう見られたい自分を服で表現しているのですね。
映画では、俳優さんが衣装を着た瞬間から、その役柄になりきれることが重要だと思うので、俳優さんの自信となり、よりカッコよく見せるための衣装を提供できるよう協力させていただきました。
ただ本音を言えば、オーダーメイドでやりたかったですね。でもキャストが決まってから1週間後に撮影スタートという非常にタイトなスケジュールだったため、やむなく既製品で対応させて頂きました。

メインが組の若頭と刑事で、ケンカしてボロボロになってしまう役どころでしたので「同じものを何着か用意してほしい」というご要望があり、いろいろなスーツを20~30着ほど準備させていただきました。何種類か選択肢があるので、シーンに合わせて俳優さんと衣装さんチョイスする、という形での協力ですね。

―第2作目は西さんが担当されたのですね。担当者として初めての衣装協力はいかがでしたか。

西さん: 衣装提供は、とても難航しました。刑事役のスーツは、一般に市場でも取り扱っているもので用意することができたのですが、威圧感のある役に合うダブルのスーツは、とても難しかったですね。取引先をいくつかまわったのですが全く収穫がなく、途方に暮れた苦い思い出があります。しかも、間が悪いことに、年末年始を挟んでいたので、本当に撮影日までに間に合うのかとそればかり考えていました。

―用意できない時はどうされたのですか。

西さん: 助監督さんから役柄のイメージを伝えていただき、現場の中で代案を提案させて頂きました。例えば、ダブルのスーツの代わりにシングルのジャケットを羽織り、派手な柄シャツで演出してはいかがですか?、というように、役のイメージに少しでも近づけていく努力をして、着こなしを提案させて頂きました。

本当はもっと吟味してじっくり提案したかった部分もあったのですが、今考えてみると、結果的にうまくまとまったな、と…自画自賛ですが(笑)。終わってみて、とても充実感がありましたよ。

―俳優さんから、衣装の感想はいただきましたか。

伊藤さん: 撮影期間中は俳優さんと交流できなかったので、直接感想をいただくことはなかったのですが、監督を通じて「俳優さんたちの普段の衣装はポリエステルなので、ウールのスーツの着心地の良さに感動していました」と聞きました。なおさらオーダースーツを着てから感想を聞いてみたい、と思いましたね。とにかく風合いも見栄えも全然違うので。

緊張感あるモノづくりの現場に刺激を受けた

―初めて映画制作に関わってみて、どんなことを感じましたか。

伊藤さん: とにかく大変な仕事だなと。朝早くから夜中過ぎまで撮影していて、不満がないわけはないでしょうけど、そういうものと受け止めて、すごく頑張っていらっしゃる姿に頭が下がりました。特に監督さんは360度全方向に気を使いながら、息をつく暇もなく動き続けている。全然知らない業界でしたけど、ここにも、ものすごく頑張っている人がいるんだな、と刺激を受けました。こういう姿、仕事ぶりを垣間見ることができて、よかったですね。

西さん: 何度もやり直しがあっても、とことん納得のいくまで追求する姿勢に感銘を受けました。私たちのモノづくりの在り方と共通するものがあるな、と。そして、撮影中の独特の緊張感は衝撃的でした。テイクが入ったら、そこにいる全員が足音ひとつ、息ひとつできないんです。普段の生活では味わえない、張り詰めた緊張感を経験させて頂き、すべてのスタッフが緊張感をもって、ひとつのものを作り上げていく過程を学ばせて頂きました。これから仕事を行う上でも、よい経験をさせていただきました。

―ありがとうございました。映画の公開が待ち遠しいですね!

ロケ地となった社員寮。今は1階・2階部分のみ中国・ベトナムからの外国人実習生が使っている。住んでいる部分も「生活感があっていい、他のシーンでも使いたい」と監督が大絶賛。

ここで拷問のシーンを撮影。畳に血のりがべったり…実際にそこに住んでいたからこそ生まれるリアリティ。

給水塔の草むらの中で死体が発見されるというシーンを撮影。

「採寸からなら1か月あれば、ほぼ100%イメージに近いものができる」と自信をのぞかせる伊藤社長。

中外国島(ちゅうがいくにしま)株式会社

【事業内容】紳士・婦人服地および服の企画・製造・販売
【事業所】愛知県一宮市大和町馬引字焼野48
【代表者】代表取締役社長 伊藤 核太郎
【創業】1850年
嘉永3年(ペリー来航の3年前)創業の老舗毛織物メーカー。紳士・婦人服地およびスーツ(イージーオーダー)、婦人フォーマルウェア・リクルートスーツ(既製服)の企画・生産・販売を行っており、おもに欧米各国への輸出に力を入れています。
国際的テキスタイル見本市「プルミエール・ヴィジョン(PV)」で日本企業として初めてPVに出展し、日本らしい新しい素材が欧州デザイナーズブランドから高い評価を得ています。平成20年には、県内の素晴らしいモノづくり企業を認定する愛知ブランド企業に選ばれました。

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