愛知県フィルムコミッション協議会

特集

2015.12.15 Tue :
SPECIAL INTERVIEW 03

2015年度中京テレビドラマ「マザーズ2015~17歳の実母」
放送直前インタビュー

話を聴いた人

中京テレビ放送株式会社 プロデューサー 栗田 美和

1988年中京テレビ放送株式会社に男女雇用機会均等法施行後の女性社員1期生として入社。バラエティ番組のADとしてキャリアをスタートさせ、ディレクター、演出として番組制作を手掛ける。その後、3人の子供を妊娠、出産。子育てをしながら以前と同じ仕事量をこなすように。報道部へ移り、記者、ドキュメンタリー番組の制作経験も積み、再び番組制作の現場へ。情報バラエティ番組を中心に数々の番組をプロデュース。近年は中京テレビ制作のドラマで企画・プロデュースを担当。「絢音」(2012)「レディ レディ~トイレで泣いたことありますか?」(2013)、「マザーズ」(2014)に続き、「マザーズ2015~17歳の実母」が2015年12月19日放送予定。

中京テレビ開局45周年を記念して制作されたテレビドラマ「マザーズ」。平成26年度(第69回)文化庁芸術祭にてテレビ・ドラマ部門で優秀賞を受賞し、さらに、一般社団法人 日本民間放送連盟主催の「平成27年 日本民間放送連盟賞」テレビドラマ番組部門においても、最優秀賞を受賞した。地方の放送局としては異例の連続受賞。「性」に関わる社会的問題を堂々とテーマに掲げ、日本の放送業界・映像制作現場から一気に注目を集めることとなった同作を手掛けたのは、中京テレビの栗田美和プロデューサーだ。地元愛知県出身で、中京テレビ初の総合職女性社員として入社した栗田プロデューサーが、放送人として、今、地域メディアで叶えたいことについてお話しを伺った。

ざわざやる必要ある?」
というテーマにこそ、目を向けたい。

社会に埋もれていることの「発掘」をテーマに、女性の視点から光を当てたい―― 1988年、まだ大学生だった私は未熟でしたが、そんな熱い気持ちを持って就職活動をしていました。入社後、制作畑でキャリアを積むも、90年代前半はまだ女性が働き続ける仕組みが確立されていない時代。体力的にキツくても弱音を吐くことは許されなかったし、子どもができてからも、育児との両立のために周囲に仕事面での配慮をお願いすることは難しい時代でした。毎日が綱渡りでくじけそうになった時は、いつか自分が「これだ!」と思ったテーマで多くの視聴者にメッセージを届けるんだと、初心を思い出し歯を食いしばってきましたね。
「マザーズ」は元々、中京テレビのドキュメンタリー番組として作られました。何度もドラマの企画書が提出されましたが、なかなか実現せずドキュメンタリーを作ったディレクターと連名で提出し、やっと制作できることになりました。確かに、「特別養子縁組」というテーマは重く、これまでタブー視されてきました。貧困や、予期せぬ妊娠などで、生まれた子どもを養子に出すという内容は、その根本的なきっかけをつくり得る男性なら、受け入れがたいテーマ。でも、だからこそ私は、眠っている問題を掘り起こして、多くの人へ伝える必要があると思いました。企画が却下されるたび、「いつか必ず!」と制作への使命感が湧き上がってきましたね。ストーリーの構成に修正を重ね、最終的にGOが出た時は、本当に嬉しかったです。

域らしさ」も発掘しながら、メッセージ性の高い作品を仕上げる。

「マザーズ2015~17歳の実母」は愛知県知多市岡田地区でロケを行いました。実際に特別養子縁組をサポートするNPO団体が茨城県土浦市にあり、そのエリアの緑豊かで歴史情緒が薫る雰囲気を再現できそうなロケ地を探していたところ、愛知県フィルムコミッション協議会から紹介があり、決定することができました。私は、その街には、その街だからこそ撮れる画があると思っています。そこにしかない空気や自然がストーリー内容とうまく相乗効果を発揮して、映像作品は仕上がります。だから、社会に訴えるべきテーマを「発掘」すると同時に、ロケ地の魅力を「発掘」することも、この仕事の醍醐味なんです。岡田地区には、まちづくりを自発的に行う「岡田街並保存会」があり、ロケハンに行った時に地元で有名な知多木綿の製造現場を見せて頂いたり、由緒ある神社やお寺について説明頂いたりと、観光客のように丁寧に案内して頂きました。また、建物一つひとつが仰々しく保存されていなくて、地域の人々の街への愛着、あたたかさが肌で感じられました。地域でのロケは、地域の方々が自分たちの街の魅力を再認識するきっかけにもなる。映像制作と同時に、そのきっかけづくりに貢献できたら、やりがいが大きいですよね。

れから先は、個性の時代。様々な価値観に触れることができる映像をつくりたい。

元々報道志望だったからかもしれませんが、新しいテーマに出会った時の「発掘感」が私は大好きです。そして、その「見つけた!伝えたい!」というテンションを維持し続け、最高の作品をつくるためには、キャストやスタッフ、ロケ地で出会う方々とコラボレーションすることが大切だと思います。“ありえない”と思っていた場面が撮れたり、地元の方との交流で知り得た情報を元に、予定していなかったカットが撮れるなど、制作者として地域への興味は年々高まっています。
「ダイバーシティ」という言葉が世界的に注目されてきている中で、映像の現場でも多様な価値観をあらゆる角度から伝えることが求められていくでしょう。「マザーズ」、「マザーズ2015~17歳の実母」の企画制作を通して、私自身、地域の多様性、人生の多様性の2つを感じることができました。地域でのロケで感じたのは、映像制作は都会だけのものではないということ。様々な地域の「味」を活かして撮れるものは、まだあると確信しました。他方、人生の多様性については、「特別養子縁組」というテーマを通じ、親子の絆の強さ、愛情の深さに血のつながりは関係が無いこと、親子、家族の形も多様であっていいということを深く考えるきっかけになったと思います。これからも、映像でメッセージを発信する人間として、多様性をひとつのテーマとして歩んでいきたいと思います。

モノのつくり手が大切にするモノ:「自分の子どもに見せたいもの、見せるべきものを基準にテーマ
を選ぶことも多いです」そう語る栗田プロデューサー。多感な年頃の3 人のお子さんを持つ母親としての顔がうかがえる。そんな栗田さんが、まるで、子どもの成長を記録するかのように、毎日の仕事のTodo や、キャスティング、スタッフのギャラまでを書きとめているA5 サイズのノートを見せてくれた。「ここ10 年くらい、このタイプのノートを愛用しています。どうしてもこの大きさ、厚さのノートに手書きでメモをとることがやめられないんですよね。もちろんスマホも無くしたり壊したりしたら、今の私の仕事、“一巻の終わり” なんですけどね(笑)」。デジタルとアナログの二刀流。多様性を大切にする栗田さん自身が、みずからそれを体現しているかのようだ。

2015 年12 月19 日(土)
午後1 時30 分~2 時55 分放送
2015 年度 中京テレビドラマ
「マザーズ 2015」
女子高生、麻子は母親からネグレクトされているうえ、母の愛人からの虐待により子供を身ごもる。妊娠を受け入れられず、心を閉ざす麻子の異変に気付いた担任教師、洋平は特別養子縁組を斡旋するNPO “スマイルベビー” 主宰の奥田貴子に助けを求める。貴子は洋平とともに麻子とお腹の赤ちゃんを救うべく奔走する。身勝手な大人たちによって傷つき、救いようのない不幸の中にいる麻子を救うものは一体何なのか?

キャスト:
NPO スマイルベビー代表 奥田 貴子・・・室井 滋
高校生妊婦 高梨 麻子・・・清野 菜名
麻子の母 高梨 美津枝・・・西田 尚美
撮影日時・場所:
2015 年10 月下旬 愛知県知多市
web サイト:
http://www.ctv.co.jp/mothers201/
栗田さんの想いがつまったリリース資料は下記よりダウンロードください。
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